第33章 episode0
‐黒尾side‐
こんな簡単に、男の前で眠れるとか。
さっき、自分がどんな目に遭ったか分かってねぇな、この人。
…なんて。
心の中で悪態吐くのは、俺が否定したい事があるから。
今のセンパイにとって、安心出来る相手は俺だけだって。
それを、認めたくねぇんだ。
きとりサンって人は、恋愛の仕方が分からなくて。
俺に喧嘩吹っ掛けてくんのも、俺が許すと思って、甘えてきてたんだって、知ってる。
何より失う事を恐れるこの人が、本当に喧嘩別れしたかった筈はない。
分かってて、手放した自分を責めたくなるから、きとりサンが警戒心がない女だと、思っておきたい。
身長のワリに、細くて軽い体を抱き抱える。
襟元から覗く鎖骨が完全に浮き出していて、また痩せたな、と思った。
多分、この人、飯なんか食ってない。
俺と居た頃は、ちゃんと食ってくれてたのに。
やっぱ、俺がいなきゃ、駄目だ。
冗談じゃなく、マジで死ぬぞ。
勝手知ったる家の中。
部屋まで彼女を運んでリビングに戻る。
ソファーに寝かせてた筈の木兎が起きていた。
「…一緒に寝てやんねーの?」
「んな、節操ない真似するかよ。」
「あの人、誰か一緒にいねーと…。」
「言うな。」
木兎が何を言おうとしたか分かった。
俺と同じ事、考えたんだろう。
マジで死ぬ、って。
だから、その言葉を遮る。
言われたら、現実になりそうで、怖かった。
さっき出会ったばっかのコイツですら気付くくらい追い詰められた彼女を救う方法が思い浮かばない。
「なぁ、黒尾。」
「…なんだよ。」
考え事の最中に話し掛けんな。
低い声を出して黙らせようとしたが、木兎は動じてない。
それどころか、俺に近付いてきた。