第33章 episode0
その日から、この家は私にとって淋しい家ではなくなった。
当たり前だったものを失ってみて初めて分かる、人が傍にいる生活の有り難み。
同じ家で少しでも時間を共有する相手がいる。
それが、とてつもなく幸せな事だと思った。
いつの間にか、呼び方もクローくん、から、クロになって。
完全に気を許せる相手になった。
一つ屋根の下で一緒に暮らして、更に自分の弱い部分を護ってくれた彼が特別になるのに時間は掛からなかった。
相変わらず、彼が私をセンパイとしか呼ばないのは、きっと進展しない為に、わざとやっている事だ。
それを、分かっていたから伝えようとは思ってなかったけど。
気持ちは隠そうとすればする程、大きく膨らんでいくもので。
学校の話、サークルの話、バイトの話、私がいない場所での交流を聞いても笑えなくなっていった。
女の子の話なんかしないで、って言えたら楽なのに。
そんな、可愛らしい性格でもない。
いつか、逆ギレして、口に出してしまいそうなのを抑える為に、クロを避けるようになった。