第33章 episode0
‐黒尾side‐
俺が知る、熊野きとりという人物は。
あんな、壊れそうな笑顔の持ち主じゃなかった筈だ。
いつでも、太陽みてぇに明るく笑ってて、楽しい事に精一杯で、さ。
友達とか、仲間とか、一杯周りにいる人だった。
それが、今は独り。
あの人の性格なら、淋しい時は淋しいって騒いで、誰かしらの傍にいるタイプだと思ってたのに。
それだけ、彼女にとって親を失う事は辛かった、いや、今でも辛いんだろう。
家族を亡くすのは、何よりもストレスになると聞く。
親を亡くした事のねぇ俺には、想像すら出来ねぇ辛さ。
きっと、彼女は無くす事が怖くて。
今は誰も傍に置きたくねぇんだ。
それでも、淋しいものは淋しいんだろう。
俺に、一瞬でも弱さを見せたのがその証拠。
すぐに立ち直ったフリして笑っても、繕いきれてねぇ堅い笑顔。
放っておいたら、今度こそセンパイは、誰にも頼れず本当に‘独り’になってしまいそうで。
だから、彼女の言葉にノって、家まで行った。
部屋を見るだけ見て、帰ろうと思ってたのはホント。
だが、俺が帰ったら、センパイはまた独りになる。
そう思ったら帰る事が出来なかった。
男女の関係になんのが目的じゃなく、女の家に泊まるなんて初めて。
下心はマジで全くないのも珍しい事だった。
ただ、彼女の傍に居てやりたかった。
何もなく明けた一夜。
翌朝、送り出してくれたセンパイの顔が、少しだけ緊張感の抜けた笑顔で。
俺は、この家で、彼女の家族になろうと決めた。