第33章 episode0
そんな話をしながら思う事は、家を売るなら自分も部屋を探さなければならない、という事。
彼の条件で探した部屋であって、自分に合うかは分からない資料をつい、まじまじと見てしまった。
「ココだと、今の家の近くっぽいな。多分、商店街方面のアパートだし。
コレは確か、広いけど外観が汚いんだよね。住むのはちょっと、なぁ。」
何枚か覚えのあるアパートやマンション名を見付ける度に意見してた。
「センパイには家あるだろ。」
突っ込みを貰うまで、まるで自分の家を決めようとしてるみたいに話していた。
あれ、何か敬語じゃなくなってる。
「クローくん、いきなり砕け過ぎじゃないですかー。私、一応先輩だからね。」
家については自分で蒸し返したくなくて、スルーした。
「センパイは敬語の方がお好みで?」
「いや、別に。気持ち悪いし。」
「ヒドイな。ボク程、敬語が似合う紳士いないですヨ。」
「…敬語いらないから普通に喋ってクダサイ。」
砕けてしまってからの会話は家や物件の話じゃなくて、また昔の思い出話。
どんどん軽い話になって、気付いたら空は暗くなってきていた。
「あー…。そろそろ帰らねぇと。実家じゃ学校遠くて嫌んなる。」
スマホで時間を確認して立ち上がる彼の袖を掴んで引き留めた。
散々会話して楽しんだ後に一人で暮らす広いだけの家に帰りたくなかった。
「クローくん、さ。学校の最寄りは、ココなの?」
テーブルに置きっぱなしの資料に書かれた駅を指差す。
頷いて答える彼に一つの提案を投げ掛けた。