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第32章 始まりの、この場所で(木葉エンディング)


階段を昇る。
屋上の近くまで。
昔と変わらず窓からの光で照らされたその場所は、人が来る事が少ないのを示すように埃が溜まっていた。

埃っぽくて汚いとか気にしない。
よく座っていた段の端に腰を下ろして膝を見つめる。
いつも、こうして下ばかり向いてお弁当を食べていた。

1年の時は、私より数分遅れて足音が聞こえてきたんだ。
あの人の足音。
近くまで来ると、あの声で私を呼んで。
顔を上げると目を細くして、歯を少し見せた大好きな笑顔が見れた。
その人は返事をしなくても触れない程度の近くに座って、パンを食べながら一人でずっと喋っていた。
たまに質問してきて、一言で答えるだけなのに嬉しそうな顔をした。

全部、過去形。
今はもうない。

1度目は、言葉が足りなくて傷付けて終わった。
2度目は、同じ言葉を違う人に使って、傷を抉った。

2度ある事は3度ある。
きっと、私は何度あの人と出会っても傷付けるんだ。
だから、始まりのこの場所で終わりにしよう。
痛いのも苦しいのも、ここに全部置いていこう。

そう思った時、足音が聞こえてきた。
迷わず、階段を昇ってくる音。

その音が近くで止まる。
見慣れない、少し汚れたスニーカーが視界に入っている。

「熊野。」

目の前に立つ人は、耳慣れた昔と同じ声で、私を呼んだ。
顔を上げると、そこには大好きな笑顔があって。

「隣、空いてる?」

初めて出会った時と同じ言葉が降ってきた。

何で、どうして、いるの。

驚きで何度も見直すように目を瞬かせる。
でも、それは消えない現実で。

私と木葉さんは再び出会った。
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