第32章 始まりの、この場所で(木葉エンディング)
梟谷学園が大規模改装をする事になったらしい。
らしい、って言うのは人から聞いた情報だから。
まぁ、そんな事をわざわざ教えてくれた上に、学校見に行こうぜ、なんて誘ってきたのは木兎さんだ。
高校に良い思い出なんか殆どないのに。
初恋の思い出も、その相手と2度目の別れを経験して、痛いだけのものになってしまった。
その人の名前を出すと、気を遣われてしまうから絶対に言わないけど。
断ってもしつこいし、世話係の赤葦さんも同伴する条件で、数年振りの梟谷学園に訪れた春。
今ある校舎は取り壊されるようで、最後に一目見ようとした卒業生らしき人達がちらほらと来ていた。
3人で歩く校庭、体育館、校舎。
誰かと並んでその場所にいるなんて妙な気分だ。
軽い会話をしながら2人が見たい場所についていくだけの校内探索。
最後に辿り着いたのは3年の教室だ。
机なんかはすでに撤去されていて、広々として見える。
「俺の席、この辺だったんだよな。窓際で、後ろの方で寝心地良かった!」
木兎さんが、教室の端の方へと移動して自慢にならない事を言う。
窓の外を少し眺めてから、こちらを振り返った。
「俺が行きたい場所はココで終わり。まだ、どっか行きたいトコあるか?」
「ありません。赤葦さんは?」
「俺もないけど…。」
赤葦さんに話を回すと答えを濁らせる。
そして真剣な顔で、私を見てきた。
「…りら、本当に、行きたい場所、ないの?」
赤葦さんの声は、何かを確信している。
一言ごとに言葉を区切って、私の気持ちの奥底にある痛くて苦しい、けどやっぱり大切な場所を思い出させた。