第31章 似た者同士(月島エンディング)
‐月島side‐
今の会社を選んだ理由は、東京だったから。
そっちに、残る為の手段のつもりだった。
ただ、本社は東京でも、支社が何件もあって。
運悪く、実家の隣町にも支社があった…いや、僕が入社した年に出来た。
初めから、地方勤務要員で、土地勘がある僕を飛ばすつもりだったの、分かりやすいよね。
お陰で、今の僕と彼女の間にあるのは、埋めようがない物理的な距離。
いくら、彼女の目が好きで。
いくら、その視線を欲しても。
手に入らない。
それなら、初めから求めない方が楽だよね。
ただ、たまに電話で声を聞けるだけで充分だよ。
だって、顔が見えないから、視線を欲しても無駄デショ?
そうやって、彼女の事は諦めた…つもり、だったんだ。
「蛍、貴方がたまに電話で話してる娘、今度紹介しなさいよ。イイ歳なんだから、先の事も考えてるんでしょう?」
自分の母親に、こんな事を言われてしまうまでは。
彼女じゃない、と咄嗟に否定が出来なかったのは、意外にも諦めが付いていなかった僕の心を表していた。
「貴方が東京の本社に転勤になるまで待たせる気なの?何年掛かるか分からないし、一生ないかも知れないのに?男なら、早い内に決めないと…他の人に持っていかれるわよ。」
他の人、か。
想像もした事が無かったよ。
りらが、あの人以外の誰かのものになるなんて。
彼は、スタートラインが違うんだ。
初めから、りらの視線を貰っていたんだから。
その人がいない今、同じ立場だった筈の誰かに何もせずに負ける、トカ。
そんな、格好悪い事、僕がする訳ないよね。