第30章 執着心への執着心(赤葦エンディング)
恋人の携帯や日記を見てはいけない。
見てもロクな事はない。
そう言われるけど、一度見つけてしまったら気になってしまうもので。
京治のアパートに来る度にあの小さなノートを開いてしまう。
でも、お付き合いを始めたあの日以来、何かが書き足される事はなかった。
私は結局、観賞対象としての執着しか持たれていなかったのだと思うのに時間は掛からなかった。
手に入れたら、もう私を見ている必要が彼にはないのだ。
「昨日は木兎さんと黒尾さんが揃ってうちに来たよ。久々に夜中まで飲んだから、泊まって貰ったんだけど…。」
「そう。楽しかった?」
こんな話をしても、嫉妬すらしない。
それは、元同居人の面々への信頼なのかも知れないけど、少し淋しい。
これでは、前と立場が逆で私が京治に執着しているみたいだ。
どうしたら、また私を見て貰えるのか。
答えは簡単。
別れれば良い。
まぁ、一回でも手を付けた女に興味を再び持つかは分からないけど、京治のものでなくなれば可能性はある。
「…あの。赤葦さん。」
少しぶりの名字呼びをして、別れ話をしようとしたけど、出来なくなった。
据わった目で私を見ている顔は不快感を表している。
内容を伝えてすらいないのに、確実に怒ってらっしゃる。
「…やり直し。もう一回呼んで。」
名前の方で、という事だろう。
今から別れ話をする相手に情が残るのは嫌だ。
「あか…。」
「…ん?」
また名字を呼ぼうとしたけど、途中で止めた。
わざとらしい笑みが逆に怖い。
ここは大人しく名前呼びに従って伝えるとしよう。
「…京治。」
「何?」
「別れよう。」
「…何で。」
望み通りにすると機嫌は一瞬だけ治ったけど、その後の話はまた怒らせるには充分なものだったようだ。
顔こそ無表情なのに、いつもより低い抑揚のない声で感情を表している。
「…日記。日記見てた。それは謝る。ごめん。」
「中身が、りらの事ばかりで気持ち悪いから別れるって言いたい?俺がりらを調べ尽くしてた事なんて知ってたよね。」
「知ってた。だからそれじゃなくて。続きが、ないから。もう私に興味ないでしょう。」
私の方まで感情を出したら喧嘩をしてしまいそうで、ただ淡々と理由を述べた。