第30章 執着心への執着心(赤葦エンディング)
‐赤葦side‐
やっと、手に入れた。
10年近く、想い続けた彼女を。
彼女が、彼女自身の意思で、俺を選んでくれた。
正直、あの人との再会より、俺を選んだのは意外だ。
でも、理由は分かる。
俺の執着が無くなる事を嫌がった、彼女の変な独占欲。
俺の執着心への執着心。
まだ、恋心じゃない。
多分、りらは恋と勘違いしているけれど。
その勘違いと、独占欲、執着心を利用して。
いつか、この唇から愛を囁かせてあげる。
隣で眠るりらの唇に、そっと触れる。
それで気付いてしまったのか、彼女が目を開けた。
首に腕が回って、唇を奪われる。
それはすぐに離れて、じっと俺を見ていた。
「…違った?」
「…え?」
「口、触ったから、キスしたいのかと。」
まるで、観察するかのような眼が向いている。
「京治、無表情だから、何考えてるのか、分からない。」
成程、表情を読もうとしてたのか。
ただでさえ、鈍感で人の気持ちが分からないりらには無駄な事だよ。
特に、後ろ暗い事を考えている時に表情を無くすのは得意なんだ。
君からどうやって愛を囁かせようか、その執着心をどうやって恋心に変えてやろうか。
そんな事ばかり考えているなんて知れたら、折角手に入った君が逃げてしまうからね。
「違わないよ。俺は、りらと、こうなりたかった。ずっと、前から…ね。」
今思っていた事ではない。
だけど、間違いなく本心で。
「…りら。」
いつか君が、この言葉を返してくれるように。
「愛してる。」
俺からは何度でも愛を囁こう。
「お休み。」
軽く、触れ合うだけのキスを落として眠りに落ちた。