第30章 執着心への執着心(赤葦エンディング)
正しさを押し付ける事が本当に正しいとは限らない。
それは私が家出事件を起こした時に言った言葉。
確かにあの時の皆は私にとって正しくなくて。
だから木葉さんを庇ったけど、使ってしまった言葉が問題で。
「一番悪いのは私ですから。」
結局、最後に行き着く答えはこれだ。
「…そう。」
一声で会話が切られた。
私を観察するような視線が怖い。
「賭けて貰っていい?」
手元でサイコロを転がして遊びながら言う赤葦さんは今まで見たどれよりも綺麗な笑顔だ。
私の未練を確かめた後にこんな事を言うのなら。
きっと、内容は私自身だ。
「俺が勝ったら、俺と付き合って。」
「私が勝ったら?」
「木葉さんに会えるようにするよ。そこからもう一度、始めたらいい。」
「木葉さんに彼女がいたら?」
「いないよ。あの人、まだりらが好きだから。」
「なんで、知ってるんですか。」
「俺が、どういう人間か忘れた?りらが気に掛ける人の情報を集めないとでも?」
顔をずっとは見ていられなくて、転がされるサイコロを見つめる。
淡々と続いた会話の最後は、なんとも赤葦さんらしいストーカー発言だった。
どうするか、を問うようにサイコロで遊ぶ手が止まる。
負けると分かっている。
だけど、私が幸せになる為には引き摺り続けた想いに立ち向かわなければならない。
なら、この賭けを受けよう。
負けて、赤葦さんと付き合う事になっても。
女の恋愛は上書きというから、忘れるきっかけにしてやろう。
「付き合っても赤葦さんを好きになるとは限りませんよ。」
「好きにさせてみせるよ。」
賭けに承諾したと言葉に含ませる。
自信たっぷりに笑っている赤葦さんから、サイコロを渡された。
「…始めようか。先手、どうぞ。」
手の平で促されてサイコロをテーブル上に落とす。
私の未来を賭けた勝負の始まりを示すのは、2つのサイコロが転がる音だった。