第29章 ○○のような存在(黒尾エンディング)
話を終えて、真っ先に聞こえたのは長い溜め息。
「ホント、鈍いのも過ぎると罪だわ…。」
呆れたような声で、赤葦さんと同じ事を言った。
「すみません。何が鈍いのか分からないので、さっぱり意味が…。」
そこから、教えて欲しいと要求する。
「何で、木兎に彼女が出来たのは祝えて、俺だと祝えねぇんだよ?」
返ったのは、答えじゃなくて質問だった。
「それは、黒尾さんが兄みたいな存在で、取られたくなくて…。」
「木兎は、兄貴みたいじゃねぇの?前は俺より懐いてたろ?」
言われて気付く。
確かに、元々は弱っている時に一緒に居たのは木兎さんだった。
真っ直ぐ力になろうとしてくれる明るさにいつも助けられていた。
そういう意味なら、木兎さんも兄のような存在だ。
じゃあ、何で黒尾さんに彼女が出来るのが嫌だったんだ。
答えは、簡単。
黒尾さんは‘兄’じゃないから。
だから黒尾さん自身が、お兄ちゃんだと認める発言をした時、心臓が痛かったんだ。
男と女にはならないと遠回しに言われた訳だから。
一つの答えが見付かると、連鎖的に解決する疑問の数々。
木兎さんは祝えて、黒尾さんは祝えない。
それだけで、木兎さんも、赤葦さんも、私の好意の向かう先に気付いたんだろう。
…あ、と言う事は、木兎さんの彼女出来た発言は嘘だな。
でも、何でそんなに回りくどい事をしたんだろうか。
これも、答えは簡単。
黒尾さんにとって、妹みたいな存在である私は恋愛対象にならないから。
気付いたら気付いたで、私が辛いのを分かっていたから。
「…答え、出たか?」
声に反応して、黒尾さんの顔を見る。
ニヤついた表情は、私が答えを出した事を確信しているのが分かった。
もう、逃げられない。
否定したって、言うまでグイグイくる人だから。
諦めて頷きだけで返す。
「…俺さ、女から告白されんの、趣味じゃねーの。」
それは、遠回しどころか、完全な拒否。
私が気持ちに気付いていても、言うなという事。
フラれる事すら出来ないなんて、それは辛い。
言わせて欲しいと頼むように開きかけた口を手で塞がれた。