第29章 ○○のような存在(黒尾エンディング)
黒尾さんは、質問に答えてくれなかった。
でも、撫でてくれる手が気持ち良くて、涙が止まるまで時間は掛からなかった。
落ち着くと、襲ってくるのは羞恥心。
裸を見られるとか、シモの関係では薄いそれが、こういった所では出るようで。
顔を見られたく無くて下を向く。
その視界に入るように、膝に乗せられた箱。
「今日の一緒に居たのは、ダチの嫁、な。コレ買いに行くの、付き合って貰ってたんだよ。」
私に渡すって事は、プレゼントだろうか。
物を貰うイベントの日ではないのに。
受け取り拒否するように箱を黒尾さんの胸に押し付ける。
「あのな、お前の為に買ったもんなの。お兄ちゃんからの好意くらい素直に受け取りナサイ。」
ズキッと。
また心臓が傷んだ。
手から力が抜けて、箱が下に落ちる。
それを拾う為にしゃがんだ黒尾さん。
下から、私を見上げるような状態で、眉を寄せている顔が見える。
「ンだよ。泣く程イヤなの?俺からのプレゼント。」
拾った箱を持ち、黒尾さんが立ち上がる。
言葉で分かる、また泣いているという事。
そんなに嫌な訳ない。
私の為にしてくれた事を、嫌がる訳はない。
首を振って否定した。
「じゃあ、なんで泣くんだよ?」
「…分からない、です。」
分からない。
本当に、何も。
「何が分かんねぇんだよ?」
この人なら、答えてくれる。
教えてくれる。
そう、思ったから、分からない事だらけの、この数時間の間に起きた出来事を話した。