第29章 ○○のような存在(黒尾エンディング)
木兎さんじゃない、とすると、黒尾さん。
だけど、赤葦さんには黒尾さんの事を相談した覚えはない。
木兎さんの行動の理由を知りたかったら、一から話した方がいいと思ったから言った訳で…。
分からない。
木兎さんも、赤葦さんも、何がしたいのか分からない。
こういう時、ちゃんと答えをくれるのは、いつだって黒尾さんだった。
人の気持ちや感情が分からない私の事、一番理解してくれていたから。
自然と、手が動く。
スマホの画面に指先を滑らせて表示したのは黒尾さんの番号。
教えて欲しい。
木兎さんが何故、彼女出来た報告をして帰ってしまったのか。
赤葦さんが何故、今更黒尾さんの事を話すくらいで気分が悪くなったのか。
だけど、やっぱりデートの邪魔になるような事は出来なくて、画面を閉じた。
食事を続ける気にもならず、ただ座ったまま時間だけが進む。
考えても、考えても、何も答えは出ない。
そうやって、悩んでいる最中だっていうのに、所々で黒尾さんのデートしていた場面が浮かんで。
考え事に集中する事すら出来なくなって。
何故か、涙が出てきた。
意味が分からなくなって、混乱して更に涙が流れて。
教えて、なんで涙が出るのか。
誰でもいいから、答えてよ。
頭の中がぐちゃぐちゃで、変になりそう。
そんな状態の耳に届いた、玄関の扉が開くような音。
東京にいる元同居人達には、鍵を預けっぱなしだから。
木兎さんが、戻ってきてくれたのか。
赤葦さんが、心配して来てくれたのか。
間違っても、デートしている筈の黒尾さんではない。
そう、思ったのに、予想は外れて。
「りら、お前、何泣いてンだよ?」
リビングの扉を開けて、驚いた顔をした黒尾さんがそこに立っていた。