第29章 ○○のような存在(黒尾エンディング)
それを聞いた木兎さんの反応は、目を何回か開閉して。
まるで驚いた時のような仕草をした。
「…あ。りらちゃんに報告!俺、彼女出来たぞ!だから、今日がココに来んの、最後な。」
だけど、話の内容との関係性が掴めない言葉だけが返ってきて。
「それは、おめでとうございます。」
取り合えず、お祝いの言葉を言う事しか出来ない。
木兎さんは、舌打ちして私の手を離す。
「俺、帰るな。飯はー…黒尾と食え!」
立ち上がると意味の分からない言葉を置いて本当に帰ってしまった。
黒尾さんと食え、って。
さっき、話した筈なのに。
デート中に、他の女から呼び出しなんて、受けてくれる訳ない。
考えても答えなんか出なくて、木兎さんの考えてる事なら多分分かるだろう人に電話をした。
すぐに出てくれた赤葦さんに、今あった事を説明する。
黒尾さんが、女性とデートしていた場面を見て、嫌だった事。
それを話したら、何故か彼女が出来た報告をして、木兎さんが帰ってしまった事。
最後に、ご飯は黒尾さんと食べろって言われた事。
聞いている間は無言だった赤葦さんは、こっちの話が終わるなり電話口でも聞こえる溜め息を吐いていた。
『…りら、俺の今の気持ち、分かる?』
「…いえ、分かりません。」
分かる訳ないだろ、顔も見えないのに。
いや、顔が見えていても赤葦さんはポーカーフェイスだから、分かる気がしない。
『一言で言えば、最悪だよ。』
「気分が、ですか。」
『うん。鈍いのも過ぎると罪だね。』
私を責めるような事を言っているのに、声は柔らかい。
怒っている訳では無さそうだ。
「なんで、ですか。」
聞いても大丈夫そうだから、答えを求める。
『りらは、俺が君をどう思っているか知ってる筈だよ。他の男の相談をされて、気分が良い訳ないでしょう?』
でも、木兎さんの事を一番よく知っているのは赤葦さんである。
あの人の行動の理由が分からないなら、聞いてもいいじゃないか。
『一応言うけど。他の男、に当てはまるのは木兎さんじゃないからね。…後は、自分で答えを出して。』
私が考えた事を言う前に否定して、電話は切られた。