第29章 ○○のような存在(黒尾エンディング)
ある日、木兎さんが晩御飯を食べに来るというので、買い物に出掛けていた。
商店街を歩く中で、見付けたカップル。
片方は黒尾さんで、隣には見知らぬ女性。
雑貨屋の入り口で、店頭に並ぶ商品を見ながら何やら会話をしていた。
何故か、心臓がぎゅっと締め付けられるような気がした。
嫉妬、してるんだろうな。
前にも似たような事があったし。
まぁ、その時は同居人である皆との関係を他の女性に邪魔されたくないって気持ちだったけど。
今は、多分‘お兄ちゃんを取らないで’みたいなブラコン妹の思考だ。
かといって、本当の妹でもない私が邪魔をする訳にもいかず。
気付かれない内に、さっさと通り過ぎた。
その夜、予定通り木兎さんと食事。
何口か食べた後に眉を寄せた木兎さん。
「りらちゃん。なんか今日の飯、味が…。」
「不味い…ですか?」
そんな筈はない。
いつも通り作った筈だ。
確かめようと、料理を口に運ぶ。
味が…ない。
美味い、不味い以前の問題だ。
塩気も無ければ、甘味も無い。
素材の味すら、火を通し過ぎたのか消えている。
それなのに薫りだけは、何故かある。
どうやったら作れんの、これ。
その行程を思い出そうと、頭に手を当てる。
真っ先に、思い浮かんだのは、料理中に何をしたか、ではなくて。
今日見た黒尾さんと、女性の姿だった。
そういえば、調理してる最中も、そればっかり思い出していて。
まともに作業出来ていた気がしない。
ブラコンも、ここまでくると病気だな。
溜め息を吐いて、箸を置く。
「すみません。ぼーっとしていたみたいです。作り直しますね。」
味の無い料理を下げようと、皿に手を伸ばした。
その手が木兎さんに掴まれて止められる。
「このまんまで、いーぞ。醤油かけたら食えるだろ。…それより、りらちゃん、何かあったか?」
顔を覗かれた。
正直に話しても、理解はして貰えないと思う。
でも、真っ直ぐに見詰めてくる瞳に負けて、今日の出来事を話してしまった。