第29章 ○○のような存在(黒尾エンディング)
客席から少し離れた場所にあったお手洗いの前に黒尾さん。
ニコニコと、愛想の良い笑顔を浮かべているけど、雰囲気は怖かった。
私に気付いて着信を止める。
「りら、何アレ。彼氏か?」
「違います。」
「じゃ、バイト先の飲み会か?」
「違います。」
「…なら、何なんだ?」
声が驚くくらい低かった。
黒尾さんの事だから、合コンだって気付いてるんじゃないか。
そして、無防備にも体を簡単に触らせた私を怒っているような気がする。
逆らえなくて、今の状況を説明した。
「…あ、そ。」
「それだけ、ですか。」
怒られると思ったのに、納得したような声だけで終わらされて困惑する。
「…バイト先が絡んでんじゃ、下手にお前連れてったら後でまた何かあんだろ。女同士のしがらみってのは、男が関わるとややこしくなんだから。」
確かに黒尾さんの言う通りだ。
今のバイトを失いたくなかったら、私自身がうまくやるしかない。
「ま、嫌な事は嫌ってちゃんと断れよ。」
強い口調で忠告をして黒尾さんは戻っていった。
すぐに続いて戻って怪しまれても仕方がないから、少し間を置いて自分も席に戻る。
待ち構えていたかのように、私を誘ってきた男が私の鞄を持っていた。
ヤバい、連れ出される。
そう思っても何を言えばいいか分からなくて、黙っている内に手を引かれた。