第28章 諦めない気持ち(木兎エンディング)
木兎さんの新しい仕事が始まり、その後も続く同居生活。
仕事の事は殆ど話してくれないから、何をしているかは分からない。
だけど、毎日楽しそうだから安心はした。
ただ、休みにジャージで出掛けていくから、バレーとか、運動に未練がない訳じゃないのも分かっている。
罪の意識を顔に出したら、また心配されるだろうから、それについては考えないようにして生活していた。
…筈、だったんだけど。
他人には読めないと言われる私の無表情は、この人には通用しないようで。
ジャージ姿で出掛けようとする木兎さんを見送ろうとした時、手を掴まれた。
「一緒に来いよ。」
断っても、多分引き摺ってでも連れていかれる。
分かっていたから、無駄な反抗はせずに一緒に家を出た。
着いた先は、近くの小学校の体育館だった。
部外者って入っちゃ駄目なんじゃないの。
なんて、考えている私の事も気にせず中に入っていく。
手を掴まれたままで、一緒に中に入ってしまった。
こんなに堂々と入るんだから、木兎さんは何か関係があるんだろうけど。
私は完全に無関係なんだって。
警備員とか、来たらどうしよう。
こちらに向かってくる足音が聞こえて、思わず目を閉じた。
足音が近くで止まって、捕まる覚悟を決める。
「コーチ!今日もヨロシクお願いシァス!」
聞こえた声は予想外のもので、恐る恐る目を開いた。
木兎さんの前に整列してる、男の子達。
「なにー?コーチの彼女?」
「ばっ!ちっげーよ!」
「コーチ、真っ赤だよー?」
「なっ、こ、これはだなー…。あ、暑いんだよ!さっさとアップしろ!」
男の子達と話す様子で分かったのは、彼等の言うコーチは木兎さんだという事。
「ビックリしたか?」
「…まぁ。」
準備運動だかで、男の子達が去ってから振り返る木兎さん。
その顔は、本当に嬉しそうに笑っていて。
コーチとして、教えているのはバレーボールだと確信出来た。