第28章 諦めない気持ち(木兎エンディング)
先輩を外に放り出して、戻ってきた木兎さんは、驚くくらい普通に戻っている。
色々あったからか、力が抜けて床に座り込んでいた私の目の前に腰を下ろした。
「…りらちゃん。」
「はい。」
「俺の為に、我慢しよーとすんな。」
「ごめん…なさい。」
「それでよーし!」
素直に謝ると、満足したように笑って腕を広げている。
意味が分からなくて、ただ見つめていた。
「ぎゅーしてやる。」
「…いりません。」
ハグを求めた覚えはない。
断った筈なのに、抱き締められた。
まぁ、木兎さんにお断りの言葉なんて通用しないのは分かってたから、大人しく腕の中に収まっておく。
「怖かっただろ?」
「いえ。我慢すれば、良いと…。」
そこまで言って、声が詰まる。
何を、我慢したんだ、私。
力じゃ、敵わない。
口下手な私じゃ、口でも敵わない。
拒否したって、押さえ付けられて、言いくるめられて。
何もかも、奪われていく感覚は…。
恐怖としか言えない。
「…怖かった。」
怖かったんだ。
昔も、たった今も。
我慢してれば、大人しくしてれば、怪我をするような扱いはされないから。
それで、諦めて。
怖いって事から目を逸らしてた。
口から出したのは多分初めて。
それに反応したように溢れた感情が押さえられなくて、声を出して泣いた。
木兎さんは、泣き止むまで背中を撫でてくれて。
心地好い感触に負けて、そのまま眠ってしまった。