第26章 2度目のサヨナラ
すぐに目に入ったのは後ろにいた黒尾さんの手。
指先で摘まむように差し出されているのはリボンの付いた小さな箱だった。
「…今の聞いた後じゃ、すっげ渡し辛ェんだけど。オマケって事で。」
それも受け取れという事のようだ。
大きさ的にアクセサリーの類いだと思う。
親の小遣いで生活する年齢じゃないし、安価なものじゃないだろう。
お洒落とかに無頓着な私が興味を持つものであるとは思えない。
渡し辛い、って言うのはそういう事だ。
ただ箱を眺めていると、強引に手に握らされた。
諦めて受け取る事にして、リボンを解く。
中身は、シュシュと同じく金色の猫が付いたピアスだった。
「お前、こういうの嫌いそうだが、ピアスホールは空いてんだろ?」
「…はい。」
「ん?なんか、反応遅くね?」
黒尾さん、思い切り大ハズレ引いてます。
私のピアスホールは、イジメられていた時に無理矢理空けられたものだから。
痛くて、怖かった記憶が甦る。
でも、私を喜ばせようと思って買ってくれたもの。
嫌な思い出を話して拒否するべきじゃない。
「…あの、お願いがあるんですが。」
自分の耳に触れる。
言い返せなくて、拒否出来なくて、抵抗すら止めてしまった。
そんな自分が憎くて、大嫌いだった。
閉じないように、忘れないように、ずっと付けていたプラスチックのピアスを外す。
「これ、付けて下さい。」
黒尾さんの手に、ピアスの箱を乗せた。
ピアスを摘んだ手が近付く。
耳に触れられても、怖くないし、痛くもない。
そりゃ、すでに穴は空いてるんだから痛い訳はないけど。
気持ちの問題。
この人達は、私を嫌な過去から、記憶から、救ってくれる。
私にとって皆は本当に大切なんだと、改めて思った。
「そろそろクロのターン終わりにしてくんない?」
悦に入っていると、きとりちゃんの声が聞こえる。
他にも人がいる事をすっかり忘れて2人の世界になってたよ。
「りらも寝ないならこっち来て飲もうよ。誰かの上、なんてもう言わないから。」
皆の方を向くと何故か全員が全員、自分の隣を空けようとしていた。
「ホント、モテる女は大変だな。」
ふざけた事を言いながら先に輪の中へ戻っていく黒尾さん。
その後を追って皆の元に近付いた。