第26章 2度目のサヨナラ
まぁ、起きた時に、の発言で現在寝てる私が関わる話をしている事は分かるし。
渡すってのは何かを用意しているという事。
怒ったというのに、赤葦さんと木葉さん以外は好きなもの探しを続行した可能性が高い。
さっき、月島くんのケーキにお礼を言った、イコール受け取った。
他の人のは受け取らない、は出来ないだろう。
嫌がった筈なのに続行した事とか、今は怒るだけの体力がなかった。
周りの様子が気になってしまって眠れず、フリだけを続けていると誰かが近付いてくる気配がする。
髪を撫でられる感触に驚いて目を開けてしまった。
「…悪ィ。起こしたか?」
目の前にいたのは黒尾さんで、謝りながら私を撫でたであろう手を引っ込めて隠そうとする。
一瞬だけ見えた手首には男性には似合わない、白い布の製品が巻かれていた。
「何しようとしました?」
「りらがあんまりにも無防備でカワイイ寝顔晒すモンだから撫でてマシタ。」
隠された手を横目で見ながら、少し強めに声を出す。
それくらいで白状してくれる人でないのは分かっていたから、誤魔化されるのも想定内。
「黒尾さん。」
にっこり、と効果音が付きそうな笑顔を作る。
うちの人間は、私の不機嫌な合図だと分かって以来、笑顔に弱いと分かっていた。
黒尾さんの顔が引きつっている。
「お前、もう寝ねぇんなら、ちょいココ座ってくんね?」
観念したような舌打ちの後、隠していた方の手で胡座をかいている足を叩いている。
手首にある物を今度はちゃんと確認出来た。
白い、多分サテン生地のシュシュ。
金色の小さな猫のチャームが付いている。
どうせ受け取る事になるなら、下手な反抗をするのは得策じゃないと思った。
ソファーから降りて黒尾さんに背を向けて座る。
膝には乗ってないけど。
「お前な、嫌な事は嫌って言えと…。」
「無駄な体力は使いたくないので。どうせ受け取る羽目になるのは目に見えてますし。」
「しくった。こんな素直に受け取んなら、もうちょいイイモンにしときゃ良かった。」
従った私に一番驚いているのは黒尾さんだった。
苦笑いしながら手櫛で私の髪を梳いて左側に寄せ、手首にあった物で結ぶ。
「でも、コレで正解です。好きなもの探し。安価で実用的なので。」
左手で髪の結び目に触れて首だけ振り返った。