第26章 2度目のサヨナラ
普通なら適当に空いている場所に座るものだろう。
だけど、こういう状態の時に隣の人を選べた試しはない。
座って良いのか迷ってしまう時点で、景品にされる事に慣れてきた証拠だ。
慣れなくても良いような事に慣れてしまった自分を恨みたい。
立ったまま、どこに座れば良いか問うように、いつも賭け事を言い出す張本人に目を向けた。
きとりちゃんは意味を考えるように何回かの瞬きをした後に、分かったようで手をぽんっと叩く。
「…あぁ。誰の上でも良いけど?何?賭けて争った方が良い?」
座る場所に迷った事に気付いたのは良しとしよう。
問題は、誰の上、って言葉だ。
膝の上にでも座れと言うのか。
「嫌だ。」
誰かの上も、賭けられるのも、一言で断りを入れる。
結局、輪には入らずに端へと避けられていたソファーに座った。
寝不足が続いていて食欲もないし、アルコールなんか摂ったら一瞬で倒れそうだから何にも手を付ける気はない。
その行動が不機嫌だと思われたようで、皆が私の様子を窺うようにこちらを向いた。
「怒ってませんよ。きとりちゃんの悪ふざけはいつもの事なので。」
気にするな、と手を横に振って示す。
部屋に戻るのは流石に許されないだろうから、せめて騒がしい場所から距離を取りたい。
言葉で言っても緊張感は解けなかった。
単に眠い事をアピールするようにソファーに横になる。
「…少し寝たらそっち行きます。」
一言残して目を閉じる。
そのまま睡魔に負けて眠れると思った。
けど、上手くはいかないようだ。
私に聞こえないようにしてるのか、ヒソヒソと小さな声で話しているような、息の擦れた音が聞こえる。
「俺は起きた時に直接渡したいです。」
「それは俺もだ。」
約2名、この声はリエーフと木兎さんだな。
ヒソヒソ話に向かない音量で声を出している人がいた。
「ばっ!アンタ等、声デカい!」
突っ込むような声の主は安定のきとりちゃんだ。
いい加減、自分の声が一番大きい事を自覚した方が良いと思う。
その後も気を取り直したように続くヒソヒソ話の詳細までは聞き取れなかった。