第25章 病的なまでの愛
少し遠くの席で木兎さんがブンブンと音が鳴りそうなくらい、大袈裟に手を振っている。
「うわ、木兎…。五月蝿くされる前に出ようぜ?店も混んできたから、席は空けた方が良いだろ?」
私を呼ぶ声の元に目を向けた木葉さんが明らかに嫌そうな顔をした。
頷いて、赤葦さんと共に立ち上がる。
「赤葦さん、代わって下さいよ。僕じゃ、木兎さんの相手は荷が重いので。」
なんとか、赤葦さんを引き留めようとする月島くん。
まぁ、私でも木兎さんと2人きりは辛いから気持ちは分かる。
「月島、社会に出たらもっと嫌な先輩とかいると思うよ。…木兎さんなら、おだてておけば扱い易いし、いい勉強になるんじゃないかな。五月蝿かったら、よく吠える大型犬だとでも思って聞き流して良いから。
…じゃあ、また後で家でね。」
木兎さんに対しての評価が大分酷いな。
赤葦さん、いつもそんな事を思って接しているのか。
月島くんを牽制するような言葉を残し、赤葦さんは逃げるように先に会計をしに行ってしまった。
確かに、別テーブルだから会計も違うし、木兎さんを1人にしたらしょぼくれるだろうし。
可哀想だけど今回は月島くんに犠牲になって貰おう。
「…月島くん、木兎さんをお願いします。」
頭を下げてから先に出ていった2人を追った。
後で五月蝿いだろうから、一応程度に木兎さんにも手を振り返しておく。
席に戻ろうとする訳でもなく、ただ呆然としたような顔で私を見ていた月島くんが気になったけど。
多分、木兎さんと2人でいるのが本当に嫌なだけだろう、と自己完結して夕飯の買い出しに向かった。