第25章 病的なまでの愛
再び、沈黙の時間。
木葉さんは引いてしまったようで、音として出しきれていない声を出そうと口をパクパクと動かしている。
私も若干引いたけど、シェアハウスにしたのはきとりちゃんだし、その後輩である黒尾さんがたまたま知り合いだったってだけだ。
「赤葦、お前相当病んでるな。ストーカーか。親戚まで調べるとか。」
木葉さんが、やっと声として出せた言葉を、完全に嫌悪感を示した低い音で吐き出した。
いや、調べてはいないだろ。
それは流石にないと思いたい。
でも、言葉としてはしっくりくる。
病んでるといえば、正にそうだ。
「りらには、人を狂わせる魅力があるんですよ。それは、木葉さんが一番よく知ってるんじゃないですか?」
赤葦さんは木葉さんの言葉を否定しなかった。
調べた事を否定しなかったのか。
病んでる事を否定しなかったのか。
どちらかは分からない。
そして、私は人を狂わせるって事を、木葉さんも否定してくれなかった。
そういえば、木葉さんは私と同じ道を進む為に進学を止めて就職したんだった。
否定、出来る訳がないんだ。
その、私の考えている事とは別の意味があったようで。
木葉さんは下を向いてしまった。
テーブルの上に置かれていた手を握り締めて、何か決意を固めたようだ。
「…俺も、狂ってたもんな。まぁ赤葦みてぇな病み方はしてねぇけど。熊野、聞いてくれるか?…で、怒ってもいい、から許して欲しい。」
少しの間の後、前置きをしてから、ゆっくりとした口調で話を始めた。
「俺、普通なら考えない事をずっと考えてた。熊野にイジメられっこのままでいて欲しい、って。他に居場所が出来たら、俺ン所に来なくなるから。
イジメられてんの知ってて助けるどころか、わざとエスカレートするような噂、流したんだ。俺を頼ってくれたら止めてやるとか、ずっと自分勝手な欲求を押し付けてたんだよ。
頼って欲しい気持ちが拗れて、就職なんて人生の一大イベントもお前と同じ道を選んだ。熊野の為、とか言って結局は自分の欲求を満たす事しか、考えてねぇんだよ。」
赤葦さんみたいな、ストーカー的な思想では無かったけど、木葉さんの考え方も完全に病んでいて衝撃的だった。