第25章 病的なまでの愛
これでも、時間を稼いで戻ってきたつもりだ。
席では、私がいたら話せないような会話が続いていて、戻れずにその場で固まってしまった。
自ずと話が耳に入ってしまうような位置で、きっと赤葦さんは私に聞かれたくなかっただろう話をしている。
私も、思い出したくない高校時代の話を…。
イジメられていた私は、暴力を振るわれていた。
その様子は動画で撮られていて、それは学校中に広まった。
誰かが面白半分でそれを動画サイトに投稿した事があったのだ。
制服で学校の特定までされて、梟谷学園は窮地に陥った。
学園自体の評判が落ち、就職や進学の困難、あらゆる部活動の大会自粛等々の世間からの制裁が下される寸前の状態だった。
本来なら、私を苦しめたクラスメイト、気付いても保身の為に無視をした教師、全てに報復する事が出来る機会だった。
加害者の名前を出せば世間的にも広まった事件だったから簡単には揉み消せはしない勝てる勝負だった。
分かっていたけど、私には出来なかった。
加害者の中に男子バレーボール部のマネージャーがいたから。
被害者は私じゃない、と無関係を装っても世間は学園全体の部活に大会自粛を迫っていた。
訴えて加害者に罰を負わせたら、無関係の部活は助かる可能性もあったけど、加害者側にマネージャーがいた男子バレーボール部は連帯責任を取らされると思った。
奇しくも季節は春高の予選前の時期で。
木葉さんは卒業していたけど、男子バレーボール部を護りたかった私は…。
自分が主犯で、イジメられてるフリした動画を作ったら面白いと思った。
騒ぎになるとは思わずやった遊びだ、と。
私を被害者と特定して連絡してきた、取材らしきものにそう答えた。
それは、今のネット社会ではすぐに広まって、事態は終息した。
学園から私に下された罰は、数週間の停学だけだったのは本当の事を知っている人達の温情もあったのだと思っている。
この事件を、私の心情を抜きにして赤葦さんが語った。