第25章 病的なまでの愛
食材の買い出しが目的だった筈だけど、私達は今ファミレスにいる。
まぁ、買い物の後に荷物を抱えて昼食なんてこの季節は厳しい訳で、先に食事になった事には納得していた。
私自身は寝不足で気持ち悪くて、食欲なんかないけど軽いデザートとドリンクを頼んで2人に付き合っている。
4人掛けの席で、隣に赤葦さん、前に木葉さん。
相変わらず話をするのが苦手な私は食事をしながら話す声を聞いていた。
「そういえば木葉さん、アンタ仕事は大丈夫なんスか?」
「有休使ってっから平気だろ。俺、今回まで有休未消化だったしな。」
「なんて言ったら、そんな長く休めるんですか。」
「…ん?彼女が行方不明なんで探して来ます、って。」
「そんな理由通るんですか。」
「ウ・ソ。通るワケねぇだろ。熊野が家出したって話聞いた日はミスばっかしたけどな。…ま、ソレも体調不良の所為にして夏風邪長引いてます、って毎朝連絡してんだよ。
調理場だから菌とか撒き散らして客に感染させたら店的にも困るし。明日は店が定休日だから、休み明けから戻るわ。」
2人の会話で、気になっていた事がまた一つ解決する。
休んでまで捜してくれたのは嬉しいけど、申し訳ない気持ちになった。
「熊野が気にすんな。俺が勝手に心配して勝手にやったんだから、な?」
テーブルの向かい側から、木葉さんの手が伸びてきて頭を撫でられる。
どうやら、顔に出ていたようだ。
昨日は徹夜だし、シャワーも浴びていない。
しかも真夏で汗もかいていて、髪の状態はよろしくない。
恥ずかしくて手を払った。
「…木兎とか黒尾にはベタベタ触らせるクセに、俺はそんなイヤ?」
「…嫌という訳では…。」
木葉さんに悲しそうなあの顔をされてしまうと、拒否ばかり出来る訳はない。
理由を話すのも自分が不潔だと言うようなもので、それはそれで嫌だ。
「木葉さん、今のりらは俺達のものなんで。あんまり気安く触らないで貰えます?」
何を言うべきか迷っていた私を助けたのは赤葦さんのお馴染み平等発言だった。
赤葦さんの中で、俺達、に含まれるのは同居している皆さんだけらしい。
木葉さんが赤葦さんを少し睨んだのが分かった。
何か言いたげなのは分かるけど、口は開かない。
訪れる沈黙。
「…お手洗い行ってきます。」
空気が重くなっていくのに耐えられず、席を外した。