第22章 家出
勝手に人をもの扱いした挙げ句、所有権を主張する。
許せる訳は無くて睨んだつもりだったけど。
「俺の花嫁サン。」
ニコりと笑いながら、さらっと前にも聞いたような台詞を返されて、毒気は抜かれた。
あ、模擬挙式の時だ。
まさか仕事でやったのに勘違いしている訳ないだろう。
でも、相手がリエーフだからわざとなのか天然なのか分からない。
「リエーフ、それは模擬挙式だ。仕事でお芝居だ。りらは俺のなんだよ。」
何故か黒尾さんまで割って入ってきて、スマホを掲げている。
その画面には例のフェアに行った時、きとりちゃんのお遊びで撮られた私と黒尾さん。
勿論、格好は新郎新婦そのもので。
木兎さんは知っているし、リエーフも私のドレスと背景の控え室で本物でない事は分かっただろう。
唯一、知らない分からない木葉さんは私の苦手なあの顔をした。
「…熊野、お前って人妻?熊野じゃなくて、黒尾?」
誰かこの人に突っ込みを入れてやってくれ。
長い付き合いでも、出来ちゃった訳でもないのに二十歳くらいで結婚なんかするか。
しかも黒尾さん、まだ学生だろ。
前から知り合いなら、黒尾さんの性格くらい知ってる筈で、ノリで人生を決めるような人じゃないって分からないかな。
突っ込みの感覚だけは似ている赤葦さんに助けを求めようと、目を向けたけど反応はない。
自分で何とかしないといけないのか。
そう思っても説明するのが面倒で、取り合えず首を振って否定だけを示す。
その後も続いた争奪戦は、きとりちゃんと月島くんの到着で幕を閉じた。