第1章 始まり
行かなかったら、面倒な事になるのは分かっている。
予想が出来る、電話の嵐。
電源さえ切っておけば、やり過ごせるかも知れないけど、バイト探し中の身で連絡用のツールが無くなるのは困る。
仕方がなく従う事にして、タクシーを止めてその家に向かった。
勿論、直接断りを入れる為に、だ。
断り方を考えている内に辿り着いてしまった、一軒の家の前。
ここまで来る間に、いい考えなんか思い浮かぶ訳もなくて、インターフォンを押そうとする指が迷う。
落ち着け、嫌なものは嫌だ、と主張し続ければいいだけじゃないか。
そんな事を思っても、元来の性格で拒否や反抗に慣れない私には無理だと分かっている。
結局、押し付けがましい親切を受ける事になるんだ。
諦めを乗せた溜め息を吐いて、迷い続けていた指先をインターフォンに押し付けた。