第1章 始まり
『…アンタ、うちに来なさいよ。』
少しの沈黙の後、命令された。
「…は?」
思わず出たのは、疑問。
親にすら頼るのが嫌で帰らないのに、イトコの元に行く訳ない。
『いや、さ。私んち広いじゃん?…で、ルームシェア?いや、家だからハウスシェアか。みたいな感じで、昔の後輩とかと住んでるのね。』
それは知っていた。
彼女の両親が事故で亡くなった後、広すぎる家を売ろうとしてた時に後輩が転がり込んできたって聞いていたから。
だからって、私まで転がり込むのは違うだろ。
『でも、私の転勤決まっちゃって数年帰れないみたいなのよ。その間、家主代理というか家の管理とかして欲しいの。
アンタが、必要なの。』
成程、私が頼った、ではなくて、彼女が私を頼ってきた形にするつもりか。
それで、私に住む場所を提供してくれようとしているのは分かる。
でも、彼女の家で暮らしている人達は…。
「…きとりちゃんのシェアメイトって男の子じゃん。」
『大丈夫よ。変な人たちじゃないのは保証するから。』
「そういう問題じゃない。」
『…貯金もいつか底を着くわよ。住所不定のまま、定職にも就けずにホームレスにでもなるの?
取り合えず、今日中に来なさい。タクシー使うならお金は出すから。…じゃ。』
「…ちょ!」
理由付けして、断ろうとしたけど無駄で。
呆気なく電話が切られた。