第20章 理解者

‐黒尾side‐

コイツの鈍さは、天然記念物並みだ。
あの分かりやすい木兎の好意も、何かを知っている感じでりらを見ている赤葦の企みにも。
何も気付いちゃいない。

最悪なのは、自分の気持ちすら解ってねぇトコだ。

りらにとって木葉は過去じゃない。
現在も、恋愛の意味で好意を持ってる。
じゃなきゃ、何度も‘過去’だって口に出す事ねぇだろ。
自分が無理矢理にでも過去のものにしたいから、言葉にすんだ。

理由はきっと、さっき言ったのが正解。
汚いから、異性関係に対する考え方が変だから恋愛する資格がねぇって思い込んでる。

そうやって、気持ちにブレーキかけてる間は、木葉に会えば会うほど。
好きになれば好きになるほど。
りらが辛くなるんだ。

会うならちゃんと自覚してからにしろってんだよ。
傷付いた顔見てると慰めたくて、抱き締めて俺にしとけ、って言いたくなる。

顔は好みで、センパイとの関係に嫉妬しない女。
性格は真面目で頑固、マイナス思考に陥りやすくて護ってやりたくなる。
惚れない理由の方が見当たらねぇよ。

抜け駆けするな、をいつも言うのは俺で。
その自分がコイツに手を出したら、本人どころか周りにまで軽蔑されんのも分かってる。

だから、この気持ちが外に、行動に出ちまう前に、自分の気持ちを認めてくれ。
傷付いた顔で帰って来ないでくれ。
頼むから。

その、俺の悩みの元は、話が出来て納得したのか、さっきよりは随分とスッキリした顔をしている。
たまに相談役の男の方に惚れるってオチもあるが、コイツに限っては有り得ねぇだろうな。
頑固ってのは、曲げない一途さも表してる訳で。
昔も今もりらが想うのは、ただ一人。

叶わない不毛な恋をしたもんだ、と。
気付かれない程度に溜め息して、今はまだ俺達の同居人でいる彼女を眺めていた。