第20章 理解者
「自分がフった方だから傷付いちゃいけない、とか思ってるだろ。」
「…え。」
何故、それを知っているんだろうか。
見られていた、という事はないと思う。
予想だけで、こんなにまで決め付けた言い方するだろうか。
素直に驚きと疑問が混ざった声が一音だけ漏れた。
「アタリ、だろ?」
確信めいた笑顔を浮かべる黒尾さんに、言葉も行動も返せない。
暫く黙っていると、脅すように音を立てて缶がテーブルに置かれた。
「…黒尾さん、鋭いですね。」
誤魔化しても通用はしないだろうと、肯定を言葉にする。
あっさり認めた私をそれ以上は責めるような事もなく、舌打ちの音が聞こえた。
「…だから、行くなって言ったろ。」
小さく呟かれた声に反応して顔を眺める。
心配してたから、分かっていたから怒ってたのか。
「朝から、分かってたんですね。」
「まぁ、な。」
「何故ですか。」
「…お前にとって木葉は特別だから。」
どうせなら、気になる事を聞いてしまおうとしても、返答はよく分からないものだけだった。
黒尾さんの手がこちらに向かってきて、私の頭を撫でる。
「フった方だって相手の事を考える分、傷付くんだよ。特に、初恋の相手とか思い入れが深いだろ?」
「…はぁ。」
「お前、さ。多分だけど自分は恋愛する資格がない、とか思ってね?汚いから、とか、異性関係に対する感覚が変だから、とかで。
どっかで気持ちにブレーキかけて、差し出してくれた手を掴み損ねてるだろ。んで、応えきれない自分に腹が立って自己嫌悪。」
頭を撫でる手は止めず、聞き取りやすいようになのか、ゆっくりと言葉が出された。