第20章 理解者
木兎さんもビールを飲み終わると、部屋に戻ってしまった。
何となく眠れる気がしなかったから、私はリビングに残っている。
誤解を解き忘れたけど、こっちが傷心だと思われているなら質問攻めはされないだろうからいい。
やる事もなく、ただ椅子にぼーっとしたまま座っていると、玄関が開く音が耳に入った。
すぐに足音がこちらに向かってきて、リビングの扉が開かれる。
「おかえりなさい。」
「…タダイマ。お前、一人?」
「さっきまで、木兎さんと赤葦さんがいましたよ。」
「…そ。」
帰ってきた黒尾さんは話をしながらテーブルに近付いてきた。
手にはコンビニの袋を持っている。
「…ん。」
一つの音を発しながら、袋から出されたのは缶のアルコール飲料。
飲め、という事だろう。
朝、夕方と変わらず機嫌はあまり良くないようで、乾杯もせずに先に飲み始めた。
「誰か、お前の事構ってると思ったんだけどな。」
ぽつりと呟かれた言葉で、黒尾さんも勘違いしている事が分かる。
でも、それなら不機嫌になるのは夕方からな訳で、朝の大反対はなんだったんだ。
私が傷付く状態になるのを予想出来たのか、黒尾さんは。
自分から聞ける訳もなくて、渡された缶を開けて中身を飲み下す。
「…お前、さ。なんで弱音吐かねぇの?」
フラれたんじゃない、自分が人を傷付けた側なのに言える訳ない。
言葉を飲み込んで、何もないと振る舞うように首を振った。