第19章 失敗
包丁が指先を掠ってしまうまでは。
「…いっ!」
ちゃんと手元を見ていた筈なのに、こんな失敗するなんて。
やっぱり、少し気が逸れてしまっているみたいだ。
小さな悲鳴をあげた事で、カウンターからこちらを覗く二人の影。
「…指、切りました。輪ゴム取って下さい。」
「…は?何で?」
振り返って切った指を見せるように人差し指を立て、無事な方の手を差し出すと、不思議そうにしながらも木兎さんが渡してくれた。
輪ゴムを指の根本にきつく巻いて止血する。
「りらちゃん、ワイルドだな。」
「絆創膏は不衛生なので。」
木兎さんと喋っていると、怪我をした手を掴まれた。
いつの間にか黒尾さんが隣にいて、私の手をまじまじと見ている。
「もう飯作るな。こんなんで止まる訳ねぇだろ。」
そのまま手を引かれてキッチンから連れ出される。
「木兎、今日は外食でもしろ。無理させんな。」
「…お、おう。」
私を掴む手は離さず、黒尾さんが木兎さんを睨んだ。
なんで、今朝からこんなに機嫌が悪いんだろうか。
別に怪我をしたくらいで作れなくなる訳がないのに。
「黒尾さん、バイト行かなくて良いんですか。」
なんとか離して貰おうと時計の方を視線で示す。
同じようにそちらを見てから手を離してくれた。
「俺が出掛けても料理するなよ。また怪我すんだろ。気が散ってんだから。」
私の心境を見透かしたような言い方に目を逸らす。
「絶対にするな。分かったら返事!」
「…はい。」
強制力のある、威圧を含んだ言葉に頷くしかなかった。
納得したのか、すぐに出掛ける準備を始める。
私の指に絆創膏を巻いたり、キッチンの方で準備していた食材を片付けたりしてから出ていった。