第18章 オトモダチ、から
木葉さんが、私を見ている。
言い返すのを待っているんだろうか。
「…マキちゃん、俺が惚れた相手にケチつけんなよ。悪ィけど、俺が付き合ってんのはりらだから。」
私が何も言えないのに気付いたのか、木葉さんは腕を振り払って言い返す。
少し怒ったように声が低くなっている。
あまりに役に立たない私に苛立ったんだろうか。
「えー。こんなにくっついてるのに怒りもしないなんて、木葉サン愛されてないですよ。良いのは見た目ばっかりじゃないですか。」
そのマキちゃんとやらは不満そうにまた何か言っている。
本格的に苛々としてきたし、言うだけ言って帰ってやろうか。
そう思ったのに声が出ない。
昔の記憶というものは実に厄介なものだ。
エスカレートするから、面倒だから、なんて理由をつけて、反抗も抵抗も拒否もしない。
言い返したら、倍以上の暴言が自分に返るかも知れない。
結局、私は自分が傷付くのが怖いから、何もしないだけ。
それなのに、なんでこんな役目を引き受けたんだろう。
木葉さんが困っていたから?
本当に断る事が出来なかったの?
答えは、ノー。
木葉さんは、嫌か、とちゃんと聞いてくれていた。
その時に嫌だと断れば、私を強引に連れてくる事は無かった。
だから、この場にいるのは私が決めた事で、木葉さんの望みに応えなきゃいけない。
それが分かっているのに、何も出来ない自分が情けなくて、悔しくて、ただ下を見て震えていた。