第18章 オトモダチ、から
「何かあるんですか。」
少し迷って、出た言葉は肯定も否定もしていない。
内容によっては空いていないと嘘を吐こうと思った。
木葉さんにデートとか誘われたら、平常心でいられる自信はない。
この人だけは他の人と違って、私が恋愛感情を抱いた事がある人だから。
『…あー…その、な。ウチの店、上の人の意向で年に一回レクリエーションあんだよ。どーせ、自由行動になるんだけどな。
それで、熊野が良かったら彼女のフリして一緒に来てくれないかなー、って。』
「私、お店の関係者じゃありませんよ。それに、コミュニケーション能力に自信がないので迷惑掛けます。」
『大丈夫だって。毎回、家族とか連れてくる人いるし。実費になるけど、それは俺が出すし。
顔を合わせるのも朝の集合くらいで、後は解散も自由だから。
…ちょーっと、今回は事情があって、来てくれないと困るんだよ。』
「…困る?」
内容を問うように言葉尻を上げた。
『…実は、な…。』
事情を知った上で断れる性格をしていない私は後悔したけど遅い。
電話の向こうで木葉さんはすでに喋り始めてしまっていた。
ここまで聞いて、その日は予定があります、なんて通用はしないだろう。
他の上手い言い訳なんか思い浮かばない。
すでに了解する事は自分の中で確定事項になってしまった。