第17章 小旅行
木兎さんが私を引っ張って、皆の輪の中に入る。
手を離されたと思ったら肩を押されて強引に座らされた。
「りらも飲む?」
「俺が飲むー!」
赤葦さんが差し出してきた缶を横から木兎さんが奪う。
受け取ろうとして伸ばした手は、そのまま空中に留まった。
木兎さんに缶を奪われて空いた手が、その手を掴む。
払おうと動かしたけど、指先を絡められて外れなかった。
「俺も汚いとか思ってないから、大丈夫だよ。」
そんな事を言われたら、離せなくなってしまう。
だけど、他の人が見ている目の前で甘い空気になる訳はなくて、繋がれた手は上からチョップされて離れた。
「はい、切ったー!イチャイチャすんならヨソでやれ。」
「…りらが良いなら、あっち連れていきますけど。」
「駄目に決まってんだろ。」
「何で黒尾さんが決め付けるんスか。」
「俺だってりらに触りたいんだよ!」
「…うわ、変態ですか。」
ふざけた様子の黒尾さんと、どこか真剣に見える赤葦さん。
その赤葦さんが示した先は寝室。
二人はそのまま言い合いを始めた。
「…りら。僕は汚物と生活してるつもり、ないから。何が楽しくて、汚物に毎日挨拶して、汚物が作った料理なんか食べるの。」
言い合いをする二人の横から月島くんの声。
汚物、汚物、って五月蝿いな。
流石にそこまでは思ってないわ。
いや、汚いもの、ならその通りですけども。
貴方の言う汚物って言葉は、私が汚いと言うよりも更に悪く聞こえる。
まぁ、分かりにくいけど、この人も大丈夫だと慰めてくれている、ような気がする。
考えてみれば、同居当初から私の破綻した考え方は知っていた訳で。
その相手を見たら、確かに現実味を帯びてしまうけど、それくらいで引くような人達じゃなかった。
最初から期待した通り、汚くないよ、って行動で示してくれていた。
嬉しくて顔が緩む。
その顔を指先でつつかれた。