第17章 小旅行
中では、当たり前だけどさっきまで話していた人達が、普通に会話をしている。
テーブルの上にはアルコール飲料の缶が並んでいて、更にお酒を飲んでいたのが分かって呆れた。
「やっぱ木兎には素直に従うんだな。」
「手、離してくれないだけです。」
「それくらい、振り払えるだろ?」
黒尾さんがニヤニヤと嫌な笑顔で繋いでいる手を指差す。
言われた通りにするように手を払って離したけど、すぐにまた繋がれた。
「俺はりらちゃん汚ねぇとか思ってねぇもん。ちょっとくらい、いいだろ。」
木兎さんは、あっさりと私が一番欲しい言葉を口にした。
実際に汚い、汚くない云々じゃなくて、汚いと思ってない。
木兎さんの感覚の中で、私は汚くない。
それだけで、救われた気さえする。
いや、うん。
少し前の芸人じゃないけど、惚れてまうやろ。
普通なら、だけど。
残念な事に、同居人にそんな感情を持ったら面倒なのが分かっているから、簡単にオチる事はない。
それ以前に、恋愛だとか男女関係に対しての感覚が人並みから外れている私が、人をそういう意味の好きになる資格なんてない。
そう思っても握られた手が暖かくて、離す事は出来なかった。