第17章 小旅行
部屋に戻る訳にはいかず、うろうろと廊下を歩いていると、後ろから足音。
ずっとついてきている様子から、私を捜している誰かだと思える訳で、振り返らずに歩調を早めた。
それでも、簡単に足音の主に捕まって後ろから抱き締められている。
「りらちゃん捕獲ー。ほら、戻るぞ。」
聞こえてきたのは、予想外の声。
何で、寝てた筈の木兎さんなの。
私の為に起こされたのなら、怒っていてもいい筈なのに、相変わらずの能天気な感じで、腕を緩めてくれた。
拘束は解かれたけど逃がしてくれる訳はなくて、手を握られている。
さっきの奴みたいに嫌とは思えず、手を振り払えなかった。
「…木兎さん、戻りますから手を離して下さい。汚いです。」
「えっ!さっきトイレ行ったけどちゃんと洗ったぞ!」
「いや、汚いのは貴方じゃなくて私です。」
「りらちゃん、トイレの後に手ぇ洗わねぇの?」
「そりゃ、洗いますけど。…私は汚いです。」
どうしても、その思考から抜け出す事が出来ない。
木兎さんは手を離す事なく、私に合わせるようにゆっくり歩いて部屋まで戻った。
「なぁ、りらちゃん。俺は約束は守る!りらちゃんが、言いたい事言って、喧嘩になったら止めてやる!だから、大丈夫だ。」
扉の前で何やら宣言して、任せろと言わんばかりの自信あり気な顔をしていた。
何があったかなんて知らない癖に、なんでこの人は私が悪いと決め付けないんだろうか。
実際、勝手にマイナス思考に陥って、優しくしてくれる人達を拒絶して、更に機嫌悪くして、空気を嫌なものにしたのは私だ。
その上、逃げて心配も掛けている。
怒られても仕方がない訳で、自分の意見を言うべきじゃない。
何も返す事はないまま、手を引かれて部屋の中に入った。