第17章 小旅行
緊張した静かな空間で、つい考えるのは昔の事ばかりで。
思い出せば出す程に、反抗をしなかった自分が汚い事を認識する。
私は皆が好きだから、そんな自分を見て欲しくなくて、構って欲しくなくて、逃げた。
辿り着いた先は受付のある玄関口。
夜も遅くなってはきているものの、カウンターの中には人がいる。
頭を冷やせるまでは此処にいようと、備え付けのベンチに座った。
誰とも一緒にいたくない筈なのに他人がいる方が安心する。
こんな矛盾した感情を持つくらいなら、信用している人達と一緒にいた方が良かったんじゃないか。
ぐちゃぐちゃと、纏まらない頭の中身を無理やり整理しようとしていると、自分に落ちてきた影。
見上げた先には、あの男。
自分の運の悪さを恨むしかない。
「熊野ちゃん、隣いい?」
肯定も否定もしなかったのに、その人は横に座ってきた。
まるで恋人にするかのように指先を絡めて手を握ってくる。
それすら嫌で、すぐに手を振り払った。
「貴方を拒否しない理由は、もう、ありません。」
自分でも驚くくらい、はっきりと拒否を言葉に出来た。
これはきっと、皆のお陰。
私が拒否しない性分なのだろうと思っていたらしい男は、何も言えなくなっていた。
「私…背が高い人が好きなんで。どう見ても対象外ですし。」
私より身長が低い事を気にしているのを分かってるから、追い討ちも掛けておく。
さっと立ち上がってその場から離れる。
まだ頭は冷えてなくて、戻る気にはならなかったけど、この場にいるよりはマシだと思った。