第17章 小旅行
‐黒尾side‐
りらの様子が変なのは分かっていた。
飯食ってる時から、心ここにあらず、っつーか、何か考えてる風だった。
あまり見ない料理、しかも和食なのに、だ。
理由が分かったのは、ついさっき。
白衣の男が、りらに話しかけた言葉で全て理解出来た。
多分、アイツはりらの元同僚だ。
しかも、りらに色々ヤってやがったヤツの内の1人。
なんで、この旅館で料理人やってるか知らねぇが、りらの驚きようを見ると、会ったのは本当に偶然だろう。
センパイが、気付かなかったのが救いだな。
この人、短気だから、あんなん聞いたら、ぶちギレんだろ。
「…クロ。」
予想を裏切る、やけに冷静な声がした。
自分に寄り掛かるその人を見ると、顔全体に悲しみを滲ませている。
怒ってねぇのが、信じられない。
「…りらは多分何も言わない。嫌な昔を思い出して苦しくても、独りで耐えると思う。」
「…だな。」
「分かってるなら、りらの弱音聞きだして傍にいてやって。」
その話だけで全部、理解出来た。
さっきのヤツにキレて、この場で話を処理するよりも、部屋でゆっくりりらの話を聞いてやりたい。
でも、それを自分がやっちゃいけないのも、分かってるから悲しそうな顔をする。
センパイは、りらに頼られても、傍にいてやれないから。
だから、俺にりらを託すんだ。
「おぅ。りらの事は俺に任せて、酔っ払いは早く寝ちまいな。」
センパイの信用、裏切らねぇから、安心しろ。
ただ、それをはっきり言える程の素直さは無くて、からかうように言葉を返した。