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第17章 小旅行


仲居さんを呼んで飲み物を頼む。
それが到着するまでの間、テーブルに並べられた料理を眺めていた。

何品か、見覚えのある料理が並んでいる。
それは、元勤め先のオリジナルだった筈だ。
一瞬だけ、目眩がした気がしたけど、和食なんだから似ていて当たり前だと自分に言い聞かせた。

板前直筆のお品書きがあったので、それを開く。
書いてあった文字にも、見覚えがあって、鳥肌が立った。
違う人であって欲しいと、目線で文字を読み進める。
最後に板前のサインが入っていて、知った名前である事に固まった。

「…りら?」

目の前に座っていた黒尾さんの声で我に返る。
心配そうに顔色を見ている様子は、私の変化に気付いたんだろう。

今から楽しく食事をしようという時に、話せる内容ではない。
何でもない、と示すように首を横に振ってお品書きを閉じた。

すぐに飲み物が揃って宴会が始まる。
普段の家飲みと変わらない混沌とした状態になるまで、そんなに時間は掛からなかった。
これなら、わざわざ泊まらなくても家でやれば良い気さえする。

「…そういえばさ、アンタ等、外面良いのは羨ましい所だけど、りらの前では止めときなさいね。」

酔っ払いだしたきとりちゃんが、余計な事を言い始めた。
どうせ、止めても意味がないと分かって静かに自分の料理を食べながら見守る。

「なんでだよー。可愛い女の子から声を掛けられたら反応すんのが男だろ。」
「…木兎さん、あーん。」
「りら、食い掛けを木兎に食わせるな。」

当然のような疑問を声に出した木兎さんを止めようと、口に入れようとした食べ物を差し出す。
きとりちゃんは止められないけど、木兎さんなら止まるかと思っての行動だった。
咄嗟の事だったから、黒尾さんに突っ込まれたように食べ掛けた物な訳で。
悪いと思って箸を引こうとしたけど、手を掴まれて止められた。

「別にそんなん気にする仲じゃねぇだろー?」

あっさりと私の箸の先から食べ物を口に入れて、満足そうに手を離される。
この一連のやり取りのお陰なのか、きとりちゃんの余計な一言の内容が語られる事はなかった。
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