第1章 始まり
‐黒尾side‐
このりらという女は、センパイの気持ちを分かってねぇワケじゃなかった。
その上で、先に眠ったヤツにわざわざ印なんて。
最後には、俺に書かせるつもりなんだろ?
負けたから、家主代理をやりますって形にしたいワケだ。
素直じゃねぇな。
それなら、悪戯は全て俺の仕業。
お前が怒られるような事はさせねぇよ。
男三人には悪いが犠牲になってもらって。
望みの通りりらの手に負けを示した落書きを。
センパイの手と繋げて書いたのは、彼女の精一杯の甘えを伝えてやりたくて。
ただ、甘え方が分からず、賭けを利用するしか出来なかったんだろう、不器用なりらの気持ちにセンパイが気付いてくれる事を願って。
二人の手をまたいで書いた下手くそなネコの絵は、手を離すと顔が半分に割れて少し残酷に見える。
「分かってるよな?」
手の甲の、顔が半分になったネコを眺めるりらに言葉を落とす。
負けてやれ。
自分から、素直に甘えらんねぇなら、俺に言われたからって事にしちまえば良いから。
「分かってます。…言われなくても、黒尾さんに印付けて貰うつもりでした。」
こちらを見たりらは、自然な顔で笑っていて。
「有難う、御座います。」
やっぱ、コイツは美人だなって思った。