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第1章 始まり


私の気持ちを汲み取って、印を残してくれた事に対してのお礼を言っただけだ。

「やっぱ、お前美人だな。笑うと特に。」

こんな風に褒められるなんて思いもしてなかったから戸惑う。
顔を確かめるように両手を頬に当てた。

自然に笑うなんて、表情筋が固まり尽くしてる私には中々ないと思い込んでいた。
人に指摘される程、表情が表に出るなんて思っても見なかった。

「美人ではないです。」
「じゃ、俺好みの顔だ。」

恥ずかしさを紛らわし否定を口にしても、大して気にしなかったようで。
人の感覚までは否定出来ない。

こういう時は何て返せば良いんだろうか。

「…あ。」
「あ?」

一つの音だけ発して止まってしまった言葉の先を催促するように、同じ音を発音する声が聞こえた。

「…りがとう、ございます?」

多分、褒められたのだからお礼を言えば良いのだと思う。
ぎこちなく、疑問を口にするように語尾を上げた。

「何で疑問系だよ?」
「…あまり、言われ慣れないので返す言葉がお礼で良いのか迷いました。一応、褒められたんですよね。」
「一応じゃなくて、普通に褒めてんだよ。素直に受け取れって。」

周りを起こさないように、少しボリュームを下げた会話。
頭をぐしゃぐしゃと子どものように撫でられた。

こんな事、あまりされた事がなくて戸惑う。

「また真顔ー。女なんだから笑ってた方が得だろうに。」

からかうような笑顔。
それよりも、一つの言葉に腹が立った。

「女だから、って言葉は嫌いです。…寝ますね。お休みなさい。」

これ以上は会話をする気にならず、ソファーの傍らに横になる。
黒尾さんが何か言った気はしたけど、酔いや疲れがあって目を閉じるとすぐに眠りの世界に入っていった。
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