第1章 始まり
額に定番のあの文字。
「木兎は焼肉好きだから問題ねぇだろ。」
「問題アリです。」
起きた時にあの五月蝿い声で騒がれたら嫌だ。
「ツッキーと赤葦は、と…。」
私の突っ込みなど意に介してないようで、次々と他の人の顔に落書きをしている。
書かれたのは、月島さんに眼鏡、赤葦さんには変な鯰のようなヒゲ。
酔って潰れているとはいえ、近くで喋りながら悪戯をして起きないかと心配になった。
最後にソファーのきとりちゃんに二人で近寄る。
女の顔に油性マーカーは流石に駄目だと取り上げた。
ボールペンでも顔は止めた方が良さそうだ。
印を付けやすいのは、手、くらいだろうか。
きとりちゃんの女性にしては少し大きめな右手を掴んだ。
「手、並べろよ。」
黒尾さんが上から覗き込むように私の手元を見ている。
指示された意味が分からず、眉を僅かに寄せて疑問を顔に出した。
「いいから。」
理由は答えてくれず、私の左手首を掴んできとりちゃんの右手とくっつけて強引に並べる。
手を掴まれた時に反射的に落とした油性のマーカーを黒尾さんが拾った。
悪い予感しかしない。
それを示すようにマーカーのキャップを口で挟んで開けたのが見えた。