第1章 始まり
きとりちゃんは親戚だけど、保護者じゃない。
まして、成人した私の面倒を見る義務はない。
それでも、私の事をそこまで考えてくれていた。
普段は自由過ぎる彼女の歯止め役、世話役が私で、私の方が年上なんじゃないかとよく言われる。
でも、きとりちゃんはやっぱり色々経験してきた大人で、子どもみたいに意地張って人を頼らない選択をした私とは比べ物にならない。
多分、今回の転勤がなければもっと長く我慢してくれた。
それこそ、私のお金が尽きて何かあった時にきとりちゃん自身が後悔する事になっても。
ここはその優しい、私を想ってくれている彼女に甘えよう。
嫌々じゃなく、彼女に甘えたいんだと素直に思えた。
「黒尾さん、何か書く物ありますか?」
手でペンを掴むような仕草をして問い掛けた。
今までの話に何も関係のない事に不信そうな顔をしながらも、胸ポケットに引っ掛けていたボールペンを差し出してくれる。
「私より先に寝た方に印でも付けようかと思いまして。証拠があった方が良いでしょう?」
まずは床で寝ている三人に、と絨毯の上を膝立ちで移動した。
寝顔を見ながらどこに書こうか迷っていると黒尾さんが私の後ろに立つ。
「それ、やるんだったらこっちだろ。」
振り返って見上げた顔は悪戯をする子どものように笑っていた。
私に見せるように持っていたのは油性の太いマーカー。
それはいくらなんでも可哀想とは思ったものの、止める前にしゃがんで木兎さんの顔に何か書き始めてしまった。