第1章 始まり
「…お前さ、分かってんだろ?」
唐突な質問。
黒尾さんが見た先にはソファーで眠るきとりちゃん。
それだけで意図は理解出来た。
「分かってます。彼女の性格で、他人だけが家に住んでるのが嫌とか言う訳ないのも。
私が失職して、住所不定無職になっているから助けようと家主代理を頼んできた事も。」
きとりちゃんの気持ち、考えは私が一番知ってる。
血が繋がっていて、年も近くて昔から仲の良いイトコであり、友人。
他の人に言われるまでもない。
「…あんな人でも、私はきとりちゃんに憧れ、尊敬してます。奔放さ、強さ、人を想う心、その全てが大好きです。」
自然と頬が緩んだ。
「じゃあ何で、頼ってやんねぇの?センパイ、結構前からお前が仕事辞めたの知ってたぜ?
毎日毎日、りらをココに呼ぼうと、連絡しようと迷って、頼って貰えないのは自分が無力だからって諦めてた。
連絡がないのは、りらが決めたやり方があるんだろう、それを尊重しようって、な。
あの人、世話焼きたいけどお前が迷惑がると思って我慢してた。」
黒尾さんの話に驚いた。
「そう、ですか。」
その程度の言葉を返すので精一杯だ。
そんなに悩ませてしまった事は知らなかったし、予想も出来なかったから。