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第14章 苦手


立ち上がる事は到底出来なくて、無防備な後ろを護るようにシンク下の棚の扉に背中を押し付ける。

「りらちゃん、大丈夫かー?」

傍まで来た人は声と口調で分かった。
だけど、顔は見えずに声だけ聞こえる状態は思いの外、恐ろしいようで。
持ったままにしていた包丁をぎゅっと握り締めた。

「りらちゃん、固まってるぜ。」
「懐中電灯ありましたっけ。」
「…取り敢えず、こっちで。」

ぱっと私に向けられた光。
眩しくて目を細めた。

「うおっ!ちょっ!これは放そうな。」

明かりで私の姿を確認した木兎さんらしいシルエットが包丁を握る手を掴む。
逆光で本当に判別がつかなかった。

固く握ったまま、開く事が出来なくなっている手から包丁は離れない。

「木兎、お前何やってんだよ。」
「…でっ!」

目の前のシルエットが増えて、木兎さんの頭が揺れた。
声は黒尾さんだし、叩いたのは分かるけど手すら自由に動かない状態で口が動く訳はない。

「…黒尾!いきなり叩くんじゃねーよ!りらちゃん、包丁握ったまんまなんだぞ!」
「うわっ!マジか。」

少しでも光があるお陰で、状況の把握は出来るようになってきている。
体は全く動かせないけど。

その後、二人によって包丁は外され、木兎さんに抱えられてキッチンから移動した。
ソファーの上に下ろされて、両脇に誰か座っているけど確認する気力もない。
その前に、顔を横に動かす余裕すらなかった。
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