第13章 月島さんとデート
あ、またやってしまった。
含みのある言い方をして、気にしてくれるのを期待してる。
それについて聞いてくれるのは意外だけど、知って欲しくてやった事だから、話そうか。
「私、下っ端だったので、まかない作ってました。私の事、女だからって好き放題扱う人達の食事。
何回、洗剤混ぜてやろうと思ったか分かりません。いっそ、タバコの葉っぱでも一緒に炒めてやろうか、くらい思ってました。」
思い出したくない記憶。
下手をしたら、人を殺しかねない事まで考えてた。
「自分が好きでやってる料理を汚いものにしたくないから、嫌いな人の食事は、もう作りたくないです。」
引かれるかもしれない。
でも、気に掛けてくれたのは嬉しいから、正直に言葉にする。
「ふーん…。じゃ、僕の事は嫌いじゃないんだ?」
「はい。」
確認の言葉に頷く。
こうやって、私の事を気にしてくれる人を嫌いになる筈がない。
逆に私が嫌われてるけどね。
「…僕だって、嫌いな人の料理には手を付けないよ。」
私の心を読んだかのような否定。
でも、気になっている事がある。
「…月島さん、私にもちゃんと名前がありますよ。」
この人は、私の名前を呼ばない。
個人として認識されていないような感じがする。
「…りら。」
迷ったような時間が空いて、名前を呼ぶ声が聞こえた。
「これからは、ちゃんと名前呼ぶようにするから。りらも、堅苦しいの止めたら?僕、君より年下。」
「誕生日が遅いだけでしょう。学年は同じです。」
「同い年なら、もうちょっと普通に話したら?」
「…月島、くん。タメ口、きいていい?」
「お好きにドーゾ。」
私達は、お互いに嫌われてるって勘違いしていたようだ。
誤解が解けた所で、そろそろ帰ろうか、となって店から出た。
来た時は、まだ嫌われてると思っていて、気まずかったけど。
帰りは、私の歩調に合わせる事までしてくれた月島くんは、分かり辛いけど優しいのだと知った。