第11章 黒尾さんとデート
ワイングラスだったら当てないのが乾杯のマナーだったっけ。
持つ部分は脚で良かったかな。
あれ、正式にはボウル部分だっけ。
あぁ、もう。
こんな高級店の常識は分からない。
更に緊張が増してきた。
グラスに手を付けたまま固まる私が不思議だったのか、目の前で黒尾さんが首を傾げている。
「ワインのマナーが分かりません。」
正直に迷っている事を口に出す。
「まず、注いで貰う時はテーブルに置いたまま。軽く脚を押さえるくらいはオッケー。」
一から説明をしてくれるようだ。
注ぐ行程は終わっているから、そこはもういい。
「持つのは、正式にはボウル部分。脚を持つのは、テイスティングする時な。
乾杯はグラスを当てず、軽く持ち上げてアイコンタクト程度で。」
黒尾さんがグラスを持って胸辺りまで上げている。
同じようにグラスを持って、顔を見た。
アイコンタクト、ってこの程度で良いんだろうか。
「後は、酒なんだから潰れない程度に楽しめ。」
にっ、と唇の端を上げて笑っている。
合図のようにウィンクをして、グラスに口を付ける姿は大人の男って感じがした。
この人がモテる理由が分かった気がする。