第11章 黒尾さんとデート
辿り着いた先は高級で名の知れたホテルで、訳も分からないまま中に入る。
混乱している内にエレベーターに乗り、最上階で降りた。
「すみません、予約してる黒尾です。」
やっと肩を解放されたと思ったら、レストランのウェイターと黒尾さんが話している。
「…黒尾さん。夕飯待ってる人達がいるんですが。」
「さっき、連絡したから大丈夫だろ。たまには息抜きしろよ。」
帰りたいと訴えたけど聞き入れては貰えなかった。
「こんな高級店で食事する稼ぎはありません。寧ろ無職です。」
「いいから。」
幾ら拒否をしようと無駄なようで、予約を確認したウェイターに案内されてしまう。
椅子に座るのまで世話をされるような店に来るのは初めてで、どうすれば良いのか分からなかった。
「ワインでも飲むか?」
「緊張で吐きそうです。」
「飲んだら紛れるだろ。」
今日はアルコールを摂取しようなどと思える余裕がない。
それなのに、目の前の人は平然としたまま注文していた。
ワインを運んできた人は何やら作法らしい事をしているけど、全く以て意味が分からない。
グラスにワインが注がれると、脚の部分に手を付けた。