第11章 黒尾さんとデート
「りら、今日ちょっと付き合え。」
黒尾さんの、その一言で一日の予定は簡単に決められた。
昼食が終わってから外へと連れ出される。
何処にいくのかと思えば、女性向けのファッションブランドが多く入った商業施設だった。
彼女へのプレゼント選び、とかだろうか。
私、そういうの疎いんだけど。
役に立たないだろうと思いながら施設の中を歩いている。
「お前、どういうのが好み?」
「女の子にプレゼントなら、本人に聞くのが確実ですよ。」
「だから聞いてんだろ。本人に。」
一瞬、耳を疑った。
黒尾さんの顔を見て、真意を探ろうとしてみるが、いつも通りのやらしい笑顔なだけで全然読めない。
「貰う理由がないですよ。」
「俺があげたいんだよ。お前が飯作ってくれてるから、結構助かってんだぜ?こっちも。」
指先で輪を作ってお金を示す仕草をした。
その顔で、その仕草は危ない人間に見えると思う。
「興味無いです。欲しくないものを貰っても困りま…。」
「はいはい、話は後な。…すみませーん。彼女に似合いそうなの、何着か見繕って貰えます?」
人の話を遮って強引に入ったショップの中で、勝手に店員を呼んでいた。
断ろうとしたけど、アレも良い、コレも良い、と捲し立てて勧める店員には敵わない。
着せ替え人形かのように何度も試着を繰り返し、最終的には黒尾さんが気に入ったらしいワンピースを買われた。
「…有難う、ございます。」
せめてお金は出そうと思っても、受け取らないだろう事は分かっていて、口先だけのお礼を言う。
「ドーイタシマシテ。ま、俺が着せたいの買っただけだし。そっちのトイレで着替えて来いよ。」
「…は?」
「ソレ着たお前とデートしたいから、な?」
ぐいぐいと肩を押されてトイレの方へと歩かされた。